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安全な抜き方

他車との車間距離から見る安全な抜き方

システム性能を評価する際、瞬間最大風速的な処理速度よりも、負荷がかかった状態でも一定のパフォーマンスを維持できるスループットの方が重要視されることは珍しくない。サーキット走行も同様だ。まぐれで出した1周のベストタイムに価値はない。それは単なるノイズかもしれないからだ。安全に上達するためには、ラップタイムの標準偏差を小さくし、再現性を高めることに注力すべきである。今回は、他車との相対関係から自身の課題をあぶり出し、安定した走りを構築するロジックを解説する。

相対速度の分析

コース上には、自分より速いライダーもいれば、遅いライダーもいる。この他車という外部変数を、単なる障害物として処理するのはもったいない。彼らは、自分の走りを客観視するための優れたリファレンスとなる。

YouTubeチャンネルBike Yokabai等の理論でも語られているように、自分と他車との間合いの変化を観察することは、最も有効なデバッグ手法の一つだ。
例えば、自分より速いライダーに抜かれた後、どこで離されたかを因数分解してみよう。

  • 進入で離された: 自分のブレーキ開始位置が早すぎる、またはリリースが早すぎる。
  • 旋回中で離された: バンク角不足、またはライン取りが窮屈。
  • 立ち上がりで離された: スロットルを開けるタイミングが遅い、または向き変えが完了していない。

逆に、前走車に追いつく場合も同様だ。どこで詰まるかを見ることで、自分の得意なセクションと、相手のボトルネックが可視化される。漫然と走るのではなく、常に相対速度をモニタリングし、差が生じる物理的要因を特定すること。これがクレバーな走りだ。

ラップタイムの標準偏差

初心者が目指すべきKPIは、1分10秒を1回出すことではなく、1分12秒を10回連続で揃えることだ。
タイムがバラつくということは、操作が安定していないことを意味する。ブレーキの強さが毎回違う、シフトダウンのタイミングがずれる、ラインが定まらない。これでは、セッティングを変更しても、その効果が操作のブレに埋もれてしまい、正しい評価ができない。

再現性が高まれば、それは余裕へと変わる。余裕が生まれれば、周囲の状況が見えるようになり、リスク回避能力も向上する。
SEがシステム構築において冪等性を重視するように、ライダーもまた、同じコーナーを何度走っても同じライン、同じ速度で通過できる技術を習得すべきだ。その土台があって初めて、限界値を少しずつ引き上げるチューニングが可能になる。

安全なパスのロジック

サーキット走行において、追い越しは最もリスクの高いトランザクション処理だ。原則として抜く側に100%の安全確保義務がある。前走車はこちらに気づいていないという前提で動かなければならない。

安全なパスの鉄則は、コーナーのクリッピングポイントでは抜かないことだ。互いにバンクしており、ラインの自由度が極めて低い状態で並走するのは、接触のリスクが跳ね上がる。
パスを行うなら、以下の条件を満たした時のみ実行する。

  • ストレートスピードの差が明白な場合: 直線で安全に前に出る。
  • ブレーキング競争で圧倒的マージンがある場合: 相手より奥まで入っても安全に曲がれる確信がある時のみ、進入でインを刺す。

少しでも行けるかな?と迷いが生じるなら、それは行ってはいけないの合図だ。無理にねじ込んで接触転倒すれば、修理費という莫大なコストに加え、相手を巻き込んだ精神的負債も負うことになる。1秒を削るために、全資産を賭けるのは割に合わない。スマートなライダーは、リスクとリターンを冷静に計算し、安全なタイミングが来るまで待つことができる。